究極の顧客満足度調査
先程、帰りの電車内でHarvard Business Review6月号を見ていたら、久々に「なるほど!」と感心させられる論文が。
ベイン・アンド・カンパニーのフレデリック F.ライクヘルド氏による「顧客ロイヤルティを測る究極の質問」(英語版はFrederick F. Reichheld:"The One Number You Need to Grow"、来月にはここでオンデマンド版が購入可能)。
近年マーケティングの世界では「顧客ロイヤルティ」という単語が氾濫しているものの、その内実は案外闇に包まれたままである。
日常生活を送っている中で、感覚的に「これがロイヤルティかな?」という曖昧な意識はあるものの、本質的なところではロイヤルティとは何かは理解出来おらず、「ロイヤルティとは詰まるところ何?」という疑問が常に付き纏っていた。
そんな疑問を一気に解消してくれたのが今回のArticleであった。
答えから先に書くと、「顧客が企業に対してロイヤルティを持っているかどうかは、たった一つの単純な質問によって計測することが出来る」という。
それは「この会社を友人や同僚に紹介したいと思いますか?」という問いかけである。
この論文によれば、この問いかけに対してYesと答える回答者の比率(10点評価で9か10点をつけた人数÷6点以下をつけた人数)と企業の利益成長率には相関関係があるという。
幅広い企業を対象にした場合においても同様の利益成長率との相関関係があるかどうかについては懐疑的な見方も出来るものの、何よりこの質問項目の単純さには正直驚いた。
というのも、近年デスクトップリサーチを代表とするITの利用拡大によって顧客調査は以前に増して複雑化しているからだ。
その最たるものは恐らく自由回答文の解析に用いられるテキストマイニングだろう。
ITハードの処理能力の向上、及びそれに伴う処理コストの低下、言語解析を含む統計処理技術の向上により、統計分析は数年前とは比較にならないレベルにまで高度化し、かつ誰でも容易に実施できる体制が既に整っている。
ただしである。顧客調査はどこまで有効活用されているのだろうか?
活用度合いは調査目的によって異なってくるのは明らかであるが、顧客満足度、あるいは顧客ロイヤルティに関する調査ではどうであろう?
恐らく、過去と現状を真摯に受け止め、次のステップ(プランニングとアクション)に結びつけることが出来ているのは10%に満たないのではないだろうか。
更に言えば、これらサイクルを常にループさせ続け「カイゼン」DNAを組織内文化として根付かせることに成功している比率となれば1%に満たないのではないか。
ビジネスの現場で顧客調査が十分に活用さていない理由の一つは間違いなく質問項目数が多すぎることにあると思う。
何故買ったのですか?、誰に聞きましたか?、次も買いますか?、満足してますか?、・・・。それぞれの質問項目の意図は解るが、その結果をどう評価し、今後どのように活かそうとしているかが全く窺えない。
データウェアハウス、OLAPなどの技術進歩により多次元分析は身近なものになったが、その結果を理解する人間の能力は殆ど進歩していない。現実問題として3次元でさえも理解出来ないケースが多いのだ。これは私がこれまで企業のマーケティング部、営業企画部、等に所属する方々と共に仕事をしてきて常々感じている事である。この複数次元が理解(把握)出来るかどうかにおいては、人間のタイプは完全に二分されるようである。学歴、理系・文系に関係なく解る人は数次元レベルであれば意図も簡単に重要なポイントにフォーカスすることが出来るし、解らない人はどれだけ説明しても解らない(こちらの意図が伝わらない)場合が多い。余談であるが以上のような経験から私が作る資料でクロス集計表が用いられることはまず無い。可能な限り平面上に棒グラフ、折れ線グラフ、円グラフを用いて表現するようにしている。
話を戻すと、仮に質問項目数が多いことを理由に何のアウトプットも生み出せない状況があるとすれば、得られる情報量がどれだけ少なくなろうともアウトプット可能となるまで質問項目を単純化することは非常に好ましい。
顧客ロイヤルティをたった一つの単純な質問で計測するということは、そのシンプルさゆえ大抵の人が理解できる、という汎用性において非常に優れている。また同時に、外部調査会社でなくとも実施出来ることからコスト面でも優れているし、集計が容易であり即座に結果が判断できることからスピード面においても優れている。
以上のように顧客調査を十分に活用するという点を考慮すると、時代の流れと全く逆行していながらも、質問項目が単純であることのメリットは計り知れない。
「可能な限り質問項目数の絞込むこと」。これは顧客調査において今一度検討する価値がある重要なテーマだと思う。
最後に、この質問項目は企業-顧客という関係以外の場面においても十分活用出来そうである。
例えば、企業と社員の関係。
「アナタは以前勤めていた会社を友人や同僚に薦めますか?」である。
偶然、昨日ボストンコンサルティングに以前勤めていた方に「戦略コンサル会社行くならどこが良いですかね?」と聞いたら、その後の目的にもよるけど「俺はボストンを薦める」とあっさり答えた。
恐らく相当良い会社(組織と個人の関係が良い会社)なのだろう。
あるいは、男女関係。
「アナタは以前付き合っていた彼女(彼)を友人や同僚に薦めますか?」である。
サスガに薦めるとなると随分無理を感じるが、小泉今日子の歌詞ではないが「あなたに会えてよかった」と言わせられるかどうか?
他にもまだまだ活用できそうである。
Posted by Ozaking at
03:24
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